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かしっこ
樫邑小学校

小学校に、地元の方がどんどん関わる 地域と子どもの架け橋になる樫邑小学校と放課後児童クラブ(学童)「かしっこ」

全校児童9名――(令和6年度現在)
里山にある「真庭市立樫邑(かしむら)小学校」。その小さな小学校には、地元のおじいちゃんやおばあちゃんがふらりと立ち寄り、勉強したり本を読んだり。校舎内で児童とおじいちゃんが笑いあっている光景も見受けられる。

今回、取材するにあたり、事前に1枚のメモをあずかった。
そこには、

・学校をまるごと「社会教育の場」としている
・地元の人が普段から学校に関わっている
・小規模校の強みを生かして、子どもたちの声に耳を傾けている

など、樫邑小学校の特徴が書かれていた。
さらには(小学校の)となりにある「学童」についても、ほかの小学校から児童が「通いたい!」と言い、事実、樫邑小学校からの利用児童よりも、他校から来る児童数のほうが多いという。

そんな「小学校×地域×魅力化」を叶えている小学校があるのか、と取材に訪れた日。たまたま樫邑小学校で「みんなでつくる音楽会」が開催されていた。聞けば、子どもと大人がともに机を並べて学ぶ「KASHIMURA共学講座」の一環らしい。
校舎内で行なわれた音楽会には、樫邑小学校の子どもたちはもちろん、樫邑以外の子どもたち、地元のおじいちゃんやおばあちゃんたちが集まってにぎわっていた。

樫邑小学校は「コミュニティ・スクール(地域と学校が一体となって子どもを育む学校づくり)」を実践していながら、さらに「スクール・コミュニティ(学校を中心とした地域づくり)」も担っている。
なぜそれが可能なのか、どのような取り組みを行なっているのか。真庭市立樫邑小学校の山本信子校長、「放課後児童クラブかしっこ」支援員代表の大塚知子さんにお話を伺った。
そもそも地元の方が訪れるようになったきっかけは何ですか?
大塚:
樫邑地区はもともと、小学校を中心に成り立っている地域なんです。昔から学校の行事ごとや運動会にも地元の方が当たり前に参加しています。地元の方がメインの運動会競技も用意されているぐらいで(笑)。
令和6年度(令和7年2月)に創立150周年を迎えたんですけど、昔の映像とか見ても体育館の落成式を祝って、地元の人たちがお祭りをしていたり。そういう歴史の積み上げの中で、地元の方がみな樫邑小学校に想いを寄せているんだと思います。そんな樫邑小学校に通う子どもたちは当然、わたしたち地元民にとって、とても大切な存在です。

いま、全校児童は9名になっていますが、小学校がなくなったら、樫邑地域全体が廃れてしまう、という気持ちを持っている方は多いと思います。
そんな中で、樫邑小学校がコミュニティ・スクールになり、「地域と学校が協力し合って、子どもたちを育てて学校も地域も盛り上げていこう」と「KASHIMURA未来会議※」を行なってきたのですが、地域の方から「子どもと大人が一緒に学べたら良いんじゃないか」というアイデアが出て、より一層地元の方が小学校へ訪れるきっかけになりました。

※PTA主催による教育委員会を招いて実施している「教育環境整備に関する意見交換会」から、学校運営協議会主催の「KASHIMURA未来会議」へ名称を変更。地元の方や保護者、教職員、教育委員会、地域おこし協力隊など40名ほどが集まり、樫邑小学校・樫邑の未来について語り合っている。
地元の方が小学校に訪れることについて、校長はどのように捉えていましたか?
山本:
わたしは小学校の教員という立場なので、「子どもたちにプラスになることはしたい」と思っています。その点からも「地元の方と一緒に学ぶことで、大人の姿から感じるものがあるんじゃないか」ということで、ぜひやりたいな、と。
一緒に学びながら、子どもも大人もともに輝けるようになったら良い。「きらきら」がキーワードになっているのもそういうところから来ています。言い換えれば「学校教育と社会教育の融合」ですよね。どうすればそれが叶うのかは、いろいろ考えました。

例えば、算数とか国語では難しいかもしれない。でも音楽とか図工、理科の実験なら地元の方と一緒にできるかもしれない。そういう提案を学校側から地域に投げかけて、実現可能なものを実施しています(取材の日に伺った「みんなでつくる音楽会」もその一環)。

そもそも「学校が集いの場になれば良いな」とはずっと思っていたことです。児童全員にタブレットが支給されたことで、パソコンルームの使用頻度が減ったんですね。それなら児童たちがつくった作品をここに集めて、保護者の方や地元の方に見てもらおうと。「KASHIMURA芸術祭2024」のいち企画「樫邑ギャラリー」としても開催しました。保護者の方や地元の方だけでなく、来校された方には紹介し、見ていただいています。
樫邑小学校では本当にいろんな企画をされているんですね。これまでの企画や取り組みを教えてください。
大塚:
「樫邑きらきら学習(生活科と総合的な学習の一部を用い、探究活動を行なっている)」というのがあって。1・2年生は「かしむらきらきらたんけんたい」として、3年生以上は「樫邑きらきらデザイナー」として活動しています。
その中で子どもたちみずから「地域のおじいちゃん・おばあちゃんを元気にしたい」と考え、「新聞をつくって配ろう!」「せっかく配るなら、自分たちでつくったアイロンビーズのコースターも配ろう!」となって。新聞をつくって、地元の民生委員さんも手伝ってくださって、樫邑のおじいちゃん・おばあちゃんにお届けしました。

みなさん、とても喜んでくださって。それも小学校と地元の繋がりを深めるひとつになったのかなと。中には手紙を書いて、子どもたちに届けてくださる方もいました。また子どもたちの発案で「お祭り」も開催しましたね。射的とか「箱の中身は何でしょうゲーム」とか自分たちで考えて、実際につくって。
山本:
「かしむらだからこそできる」「子どもも大人もチャレンジ」を掲げていて。まだお話していない取り組みで言えば、「樫の里きらきら発表会」もあります。児童によるステージ発表だけじゃなくて、令和6年度は地元の方と卒業生のステージ発表もありました。最近ではPTAの方が「本格的な演劇」も披露してくださって。150周年を記念して行なった校歌の「熱唱」も良かったです(笑)。
「樫邑タイム」というのもあって。水曜日は掃除のない「ロング昼休み」をもうけて、地元の方との交流にもあてています。これまで「むかし遊び」や「ニュースポーツ」などを地元の方と一緒にしています。

「体験活動」もあります。樫邑地区には「紙漉き」の文化があるので、紙の原料となるミツマタを植えたり、しじり体験(ミツマタの皮をむく体験)や紙漉き体験をしたりします。そして自分たちで漉いた紙を「卒業証書」にしています。ほかにもゆたかな自然を生かした「川遊び」や「バードウォッチング」もありますね。
「全校で学習」は文字通り、児童全員で英語を学んだり、図工をしたり。先日は体育の一環で「樫邑版SASUKE」と銘打ち、先生たちといろんなステージをつくって、子どもたちと身体を動かしました。
「図書館の地域開放」もあります。真庭市立中央図書館さんとも連携して、地元の方が本の貸し借りができるようにしています。ふらりと小学校へ来てくださるきっかけにもなったり、地元の方の集いの場になったりしたらいいなと思っています。

じつは「大人向け」の講座も、小学校で実施しているんです。子どもと一緒に学んでいるうちに、大人たちが「もっと学びたい」となりまして(笑)。「樫邑の歴史」を中心に毎月第1水曜日の午前中、大人たちが本気でかつ楽しく学べる時間を設けています。樫邑地域の歴史をひも解く手がかりをみんなで見つけ、記していきながら「共に学び、共に創る(まとめる)学習」、題して「樫邑ふるさと風土記づくり」です。
その背中を子どもたちが見るんですよね。大人たちが学んでいる背中を見て、子どもたちも感じるものがあるようで。お互い、とても良い刺激になっていると思います。

大塚:
小学校が「みんなの居場所」になっているんですよね。それは樫邑の大人にとってもそうです。はじめは「小学校がなくなるかもしれない危機感」があったんですけど、最近は心配よりも「これからどうしていこう」と前向きに考えることが増えたようにも思います。

それは「郷土愛」にも通じていて。たとえば、樫邑小学校の卒業生が「結婚式の前撮りを小学校で撮りたい」って言うんです。どうしても小学校で撮りたいって。地域とともにある樫邑小学校が、いまでも卒業生の居場所になっていて、いつまでも「愛着」を感じてくれているんですね。
そういうわたしも一時期、樫邑を離れていたんですが、「子育てをするなら絶対に樫邑が良い!」と思って帰ってきたひとりです(笑)。たくさんの大人に愛されて、たくさんの体験ができて、自然の中でのびのびできる。とても良いところです。
小学校だけではなく、樫邑は「学童」も特徴的とお聞きしました。
大塚:
むかしから学童があったわけではなく、平成30年にわたしたちが立ち上げました。若い人たちが樫邑で子育てをしようと思ったら「放課後にあずけられる学童が必要だね」という話になって。学童なんてもちろんやったことなかったんですけど(笑)。空いていた「旧樫邑幼稚園」を、学童として使わせてもらえることになりました。
素人ですから、わたしたちもはじめは「放課後に子どもをあずかって遊ばせる」ぐらいのイメージしかなかったんですけど、いろいろ研修を受ける中で、いまの社会で学童がどういう役割を担っているのか、少しずつわかってきて。プレッシャーはありました。

でも、「樫邑の魅力を大切にしたい」とは思っていました。地元民であるわたしたちが「必要だ」と思ってつくった学童ですから。樫邑の自然とか、地元の方との関わりとか。そういう魅力は生かしたいなと。また、これまでの話にもありましたけど、樫邑ぜんたいで子どもを育てようという意識もあったと思います。
地元の方が企画するいろんな行事はもちろんのこと「川遊び」とかもふつうにします。「危ないからさせない」という地域もあるみたいですけど、「樫邑の学童なのに、川遊びをさせないなんてどういうこと?」っていう話じゃないですか(笑)。

いま、樫邑小学校ではない近隣の小学校からも、ここの学童へ20名ぐらいの子が通っています。保護者のみなさんからは「子どもが行くのを楽しみにしている」「自然の中での遊びもできて、子どもがのびのび過ごせている」と言ってもらえています。「うちの子、ここでは落ち着いてのんびり過ごせているみたい」と言われることもあります。
樫邑の自然に囲まれた雰囲気の中で、ゆったりした気持ちで人と関わることができる子どもたちに育っていってくれたらと思っています。

樫邑小学校の子どもたちにとっても、いろんな子どもたちと触れ合える機会になっていると思います。樫邑小学校の子どもたちと、樫邑小学校以外の子どもたち、地元の方が重なりあう「いろんな経験や体験に充ちた学童」が、樫邑の学童なのかもしれません。
いろんな取り組みを通じて、子どもの育ちを支えているんですね
山本:
地元の方があたたかいので、児童が「安心して」登校してくれていると思います。全国的に不登校などの課題がある中、樫邑小学校は「子どもも大人も行きたい小学校」に向かっていると感じています。
地元のみなさんが子どもを大切に想ってくださっている上、全校児童9名のため「全員が主役になっている」ことも大きいですね。ひとりひとりと「対話」する時間もしっかりと取れています。子どもたちの将来を考えながらではありますが、やっぱり「いま」です。いま、子どもたちが幸せに生きること。それが大切だと考えています。