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西野博之
認定NPO法人フリースペースたまりば理事長

【後編】「川崎市子ども夢パーク」を立ち上げた西野博之さん講演会。「みんなで作ろう!〈やってみたい〉が生まれる場所」

「川崎市子ども夢パーク」を立ち上げた西野博之さんの講演会を受けて、会場からいくつも質問がありました。
(前編はこちらから)
また西野さんをはじめ、真庭市教育長や実際に真庭で「居場所づくり」をしている方のパネルディスカッションもおこなわれました。後編ではその様子をお伝えします。(質疑応答・パネルディスカッションともに司会は、真庭市立中央図書館長の西川正さん)
◆子どもたちの「リスク」「ゲーム」「けんか」をどう捉えるか

西川:
西野さんへの質問です。「川崎市子ども夢パーク」について「危ない」「子どもがつくったもので大丈夫か?」という外部の大人の声もあると思いますが、どういう風に理解を得たりコミュニケーションを取っていますか?

西野:
なにを危ないと捉えるかですけど、私たちは危険を「リスク」・「ハザード」の2つに分けています。
「リスク」というのは、子どもが見えている危険です。たとえばノコギリを使うときに、おさえる力が甘くて手を切ってしまう。でも痛い思いをすることで以降、身を守る術を身につける。危険を予知する力がつくわけです。
それなのに、大人が「危ないからやめなさい」と言って、挑戦もしないうちから子どもの危険を奪ってしまう。大人は自分たちに責任のかかりそうなことを禁止にしていくだけ。それではいつまで経っても、危険を予知する力や回避する力は育まれません。本来、失敗したり怪我をすることから学ぶことがたくさんあるのに……。

西川:
つぎの質問です。フリースペースえんでは、ゲームを自由に好きなだけできるようですが、たとえば朝から晩までやっている子はさすがに介入するのでしょうか?

西野:
介入しません。私たちは「やめろ」とは言わないですね。いちばん良いのは講演会でもお伝えしたとおり、「親が介入しないこと」です。子どもを信じてあげてください。
子どもたちはとことんやりたいことをやったら、ふと考える時が訪れます。「俺の人生ゲームだけやっていていいのかなぁ」子どもはゲームよりも面白いものを見つけたら、自分からそちらに乗り換えます。その前に親から再三注意されると、やめられなくなるんです。

西川:
またゲームにはゲームの良さもありますよね。たとえば不登校の子にとって、ゲームは命をつなぐツール。コミュニケーションツールです。
つぎの質問です。子どものけんかにはどう関わりますか?仲裁はされますか?

西野:
基本的に、仲裁もしません。ただ相手がもうファイティングポーズも取れない状態になっているのにそれでも馬乗りになって殴っている。これはもうただの暴力。そういうときは仲裁というか、引きはがします。「戦う意思がない子をなんで殴ってるの。それはただのいじめじゃん」って。
だけど、子ども同士が「このやろう!」とやっているのはやらせておく。そのとき私たちがするのは、近くに危険な棒が落ちていないか、投げたときに危ない大きさの石がないか。そういうことだけ。あとは「どうぞ」ですね。

西川:
気の済むまで、がキーワードなんですね。
つぎは質問というか、相談です。外遊びがぜんぜんできない学童の状況を打開したいんですが、知恵をお借りできますか?

西野:
全国的な課題ですよね。とにかく怪我させないため、子どもたちを閉じ込めてしまう。その打開方法はやっぱり、学童を運営する法人なり施設長と、利用者の保護者、そして子どもたちが対話できるチャンネルをどうつくれるかだと思います。
「子どもと一緒に学童をつくる」ということです。その場合、子どもと大人は対等です。子どもの意見に対して、親の意見もちゃんと伝える。大人の意見もちゃんと伝える。対等なパートナーとして対話をしていくことだと思います。

西川:
ありがとうございます。
それでは、第2部のパネルディスカッションに移ろうと思います。


第2部のパネルディスカッションは、西野博之さんをはじめ、真庭市教育委員会教育長の三ツ宗宏さん、北房つどいの広場を立ち上げた原優子さんが登壇しました。司会は真庭市立中央図書館長の西川正さん。
三ツ宗宏さんプロフィール
教員時代、身近にある川や山を生かした授業づくりに尽力。子どもたちや保護者とともに、校庭を魅力溢れる場所づくりや地域参加によるお祭りづくりなどに取り組む。2009年まで現役小学校教員として働き、現職の真庭市教育委員会教育長へ。
原優子さんプロフィール
北房つどいの広場「ほくぼうほたるっこ」活動14年以上。立ち上げ以来、8年目まではボランタリーに子どもを育て合う機会と場づくりに尽力。現役お母さんとして様々な地域活動に関わる。
※北房つどいの広場「ほくぼうほたるっこ」とは、真庭市北房地域の子育て支援拠点施設です。子どもにとっては遊びやふれあいの場。保護者にとっては交流のできる場です。

◆子どもにも大人にも共通する「安心・安全で楽しい場所」


西野:
さっき、不登校の話でしなかったんですけど、学校の先生から聞くわけです。
「不登校って根性ないっていうか、勉強がいやだ、学校がいやだとか言って、もうちょっとがんばってみんなと一緒に学校くればいいのに。情けないよな」
いやいや、そうじゃない、と言いたい。
私が出会ってきた2000人を超える不登校の子どもたちはみんな、基本的に学校に行きたい子たちです。「学校が安全・安心で楽しく学べる場所だったら行けるのに、学校が安全じゃない。安心できない。楽しくない」。だから困っている子たちなんです。その不登校観を変えていけたら、と思います。本当は、学校が安全・安心で楽しい場であれば、基本的にみんな学校に行きたいんです。大人だって安全・安心で楽しい場には行きたいですよね。

原:
第1部講演の最後にあった「大人が幸せなじゃないと、子どもも幸せじゃない」という子どもたちからのメッセージが、ズキュンと来ました。私たち大人がハッピーで生きることが、子どもがハッピーに生きることに繋がっているのかな、と思いました。

西野:
そもそもお母さんが追い詰められていて苦しいよな、と思います。夫婦げんかで怒鳴り合って、奥さんはただ夫から感謝の言葉がほしかっただけなのに……。
子育てって孤立すると本当に苦しくなります。愚痴をこぼせたり、息が詰まったときにはちょっとお茶したり、買いものしたり。そういう時間が必要です。お母さんたちが休める、そんな社会になればいいな、と思っています。

原:
子どもを産んで、はじめて子どもが可愛いって気づいて。でも子育てしていくなかでやっぱり孤立するんです。社会と離れて、家にずっと子どもと2人でいると。それはすごく幸せなことですけど、やっぱりちょっと息抜きしたいときもある。「そういう場所があればいいな」と住んでいた北房地域にお母さんと子どもの居場所となる「ほたるっこ」を立ち上げました。

西野:
私たちって、赤ちゃんからエネルギーをいっぱいもらうんですよね。子どもを抱っこするとすごく幸せを感じます。だから息が詰まっているお母さんは「どうぞ、抱いて抱いて」と手を放していい。
こっちは抱っこできて嬉しい。お母さんは少し手が離れて嬉しい。win-winなんです。まち全体で子どもを育て合うってそういうところからです。
◆真庭で広がる「あそびのわプロジェクト」


西川:
三ツ教育長、学校についてはいかがですか?

三ツ:
いまの先生や保育職の方々は、現場が安心・安全な場になるよう本当に努力されていると思います。ただ、いまは社会全体から寛容さが失われている。「良い・悪い」の二極化とか効率だけを求める風潮とか、価値が統一されて、身動きが取りづらくなっているように感じています。

西川:
親側の「子どもの評価が、自分の評価になっていく」。なにかあったら、自分のせいにされる、というしんどさも寛容さが失われている一因だと思います。
質問も来ています。「子どもも保護者も、外遊びがしたいと思っています。でも地域の方の〈危ないからやめろ〉などのひと言で外遊びができなくなってしまう状況がある。地域の理解ってどうやって得たらいいのでしょう?」

三ツ:
いま、「まにわあそびのわプロジェクト」が生まれています。子どもも大人も肩の力を抜いて、自由に遊べる場所をつくっていく動きです。真庭にはこれだけいっぱいの自然があるので、その土地柄を生かして、いろんな遊べる場所をつくっていく。その過程で仲間が少しずつ増えていく。対話や知恵を持ち寄って、さらに新しい動きが生まれていく。
そういうことを丁寧に積み上げていきたいな、と思っています。そうした動きを斜め後方から伴走して支援していく、相談にものってくれる郷育魅力化コーディネーターもいます。

※「まにわあそびのわプロジェクト」の動きなどがわかるWEBサイト「遊びと学びの場づくり応援サイト VIVAまにわ」
https://viva.maniwa.city/
西川:
最後に今日のタイトル「みんなでつくろう。やってみたいが生まれる場所」にちなんでの質問です。やってみたいが生まれる場所ってどんな場所なのでしょう?

三ツ:
「ありのままで認められる安心がある場所」かな。

原:
私の「やってみたい」でつくった場所が「ほたるっこ」でした。だからほんとに「やってみたい」と思ったら、真庭って叶いやすいところだと思います。だれかの「やってみたい」を支えていけるまちだと「やってみたい」がどんどん生まれると思います。

西野:
「生まれてきてよかった」と思える。「生きてるって楽しいよね」と思える。そんなまちだと思います。子どもの命が輝いていて、もうイキイキとしていて「もうさ、すげえ楽しいの!生まれてきてよかった。いま毎日が楽しいよ!」そう言ってくれる子どもの笑顔が見たいです。本当にそれに尽きるな、と思います。

西川:
ありがとうございました。

講演会・パネルディスカッションの後、西野博之さんを囲んで「対話」を中心とした「みんなで作ろう!〈やってみたい〉が生まれる場所」についてのワークショップも開催しました。参加者も多く、「やってみたい」が生まれる場所をみんなでつくりたい。そんな想いが伝わってきました。

編集:甲田智之