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二宗くり子
(中和保育園園長)

登園するのは、森の入り口。「森あそびの日」が生まれたきっかけとこれから

パキパキと小枝を踏む音が聞こえる。
子どもたち(3歳・4歳)の足取りはしっかりとしていて、まったく疲れがない。むしろその瞳はキラキラと輝いて、森の中で「何か面白いもの」を夢中になって探している。ときどき立ち止まって、森の生きものや草木に触れて、静かに耳を澄ます。

「ねえねえ。鹿って、歩いてるときと走ってるときの足跡が違うんで」
「見て。ほら、ジョロウグモのオス!」
「いま、秋でいちばん大切なものをさがしてるの」
中和(ちゅうか)保育園の「森あそびの日」。
登園するのは保育園ではなく、森の入り口。そして先生と一緒にそのまま森の中へ入っていく。子どもたちは、森の中で「自由」に遊ぶ。身体を思いっきり使って、楽しそうに遊ぶ。

2023年度から始めた「森あそびの日」。なぜ園を離れて森の中で自由に遊ぶ「自然保育」が可能だったのか。そして、子どもたちはどのように変わっていったのか。中和の豊かな自然を生かした「自然保育」について、中和保育園の二宗くり子園長にお話を伺った。
「森あそびの日」はどういうことをされているんですか?
 中和保育園では、月に2-3回「森あそびの日」を設けています。
 中和地区にある「津黒いきものふれあいの里」では、先生と子どもたちが相談しながら「こっちへ行こう!」と自分たちで行く方向を決め、森の中を探検します。どんどん歩いて、「モリアオガエル」「オニヤンマ」などのいろんな生きものや、どんぐりの芽や山菜、野イチゴといった草木を発見して「うわぁっ!」と目を輝かせます。背たけぐらいあるマーガレット畑でかくれんぼをしたり、小川に入って川の中を覗いたり、子どもたちが感じるままに自然の中で遊んでいます。
 また同じく中和地区にある「はにわの森」にも行きます。シーソーや巨大ブランコ、ツリーハウスなど、手作りの木の遊具で思いっきり遊べるうえ森の中を思いっきり駆けまわります。にわとりを追いかけたり、近くの田んぼに入っていったり、肌寒い日には焚き火をしてもらいあたたまったりもします。季節によって「遊び方」が変わるのも面白いです。
 園自体も、自然と園の境界線がほとんどありません。園を一歩出れば、山や川、そば畑があり、「みどり坂」を超えれて山向こうの「中和小学校」へ遊びに行くこともあります。冬は雪が積もるので、そり遊びやスケート、雪だるまづくりと自然の中で飽きることがありません。
「森あそびの日」はどういうきっかけで始まったのでしょう?
 いま、中和保育園は10名の子どもたちが通っています(令和6年度現在)。そのほとんどが移住して来られた保護者さんの子どもたちです。中和の豊かな自然に惹かれて移住して来られた保護者さんですから、子育ても「自然の中で」という想いがあって「自然保育」を望まれる声があったんです。
「(自然が見せる表情の変化を感じるから)雨の日も外で遊ばせてください」
「自然の中で思いっきり遊ばせてください」
 そう言ってくださる保護者さんがいて、生きるチカラを育む「森あそびの日」を始めました。

 私も子どもの頃はよく山や川で遊んでいました。今も、子どもたちは自然の中で遊ぶ楽しさやおもしろさ、遊びこめる心地よさを体感しながら学んでいると思います。自然の中で、子どもの自由な感性から生まれる「0を1にする工夫、発見」も大切にしたい。そう考えています。
「森あそびの日」を始めて、子どもたちはどのように変わりましたか?
 体力がついたと思います。森の中を1時間ぐらい平気でずんずん歩いていきます。体力測定では数値が出ないような、ハシゴをのぼるチカラやロープを伝うバランス感覚、足場が悪くても駆けていくチカラとか、子ども本来の「身体を使うチカラ」が養われていると思います。
 工夫するチカラもついています。自然には決められたルールがありませんから、自分たちで考えながら工夫して遊んだり、自然の中から遊びをつくったり発展させたり。「やってみたい!」「やってみよう!」がいろんなところで生まれているように思います。

 また、中和保育園のみんなで森へ行くので、年上のお兄ちゃんお姉ちゃんたちが年下の子たちを見てくれる「思いやり」には、いつもグッと来ます。手を繋いであげたり、抱っこしてあげたり。それに、森へ行くと、子ども同士の関係性が園内とは変わるんです。
子どもたちの好奇心いっぱいのキラキラした目も嬉しいです。自然の中で「とことん遊びこんで」、心の動く体験ができている、と思います。あと、私たち保育士も森へ行くのが楽しいです(笑)。
子どもたちと接するうえで大切にしていることは何ですか?
 見守る姿勢を大切にしています。子どもたちは本来、自分たちで考えて、解決していくチカラを持っています。子どもの主体的な動きを大切にして、見守り支えるよう心がけています。
 そして中和保育園には「保育理念」「保育目標」の書かれた「経営計画」があります。先生同士はもちろん、保護者さんや地域の方々にも「中和保育園は、こんな想いでこういうことをしています」を伝えられるようにしています。
中和保育園の特色は、どのようなところにあると思いますか?
 中和保育園の特色は、やっぱり「関わる人の多さ」です。「津黒いきものふれあいの里」の雪江祥貴館長が生きものや草木のことを教えてくれるほか、「はにわの森」では管理人の大岩功さん、中山真さん、川上翔さんたちが遊びを通して様々なことを伝えてくれます。
 また、保護者でもある元地域おこし協力隊の樋田碧子さんが森あそびに同行してくれますので、本当に多くの方々で園を支えてくれていると感じています。近くの田んぼに入らせてもらったり、収穫体験をさせてもらったり、地域の方もとても協力的です。
中和地区全体に「子どもを育てていこう」という一体感があるから、「特色のある自然保育」ができているのだと思います。
「森あそびの日」実施の背景には、そのような地域との連携もあり、とてもありがたく思っています。今年度になり、視察に来られる方もおられます。「森あそび」の楽しさを多くの方に知っていただけたらと思います。
編集後記に代えて
 僕自身も「森あそびの日」を楽しんだ者のひとり。また当日、同行したカメラマンも子どもたちと一緒になって、森あそびを楽しんだ。あっという間の時間だった。

 中和保育園には「もっと遊びたい」「もっと関わりたい」と思う魅力がある。もしかしたら中和の山や川、自然も含めて、中和地域全体が「関わりしろ」に充ちた場所なのかもしれない。中和は楽しいだけじゃない。子どもを育てていくことに本気だ。
(聞き手・編集 甲田智之)