特集記事

  1. HOME
  2. 特集記事
  3. 地域も学校いきいきと元気にするために~中和の地域づくりと学校づくりの歩み~

教育課程特例校
中和小学校

地域も学校いきいきと元気にするために~中和の地域づくりと学校づくりの歩み~

保護者や地域住民が学校運営に参画するコミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)は、2005年に文部科学省が創設し、2017年より、その設置は教育委員会の努力義務になりました。真庭市でも、2023年度までに市内すべての小・中学校がコミュニティ・スクールになりました。

いち早く、2019年にコミュニティ・スクールになった中和小学校は、2023年度、文部科学省より「教育課程特例校」に指定されました。その指定を得ることができた背景には、小学校の存続を願う地域の想いと、その目標に向かって地道に歩んできた地域づくりと学校づくりの積み重ねがあります。

この特集記事では、中和地域のこれまでの歩みと、教育課程特例校として新たに設置した「中和いきいき学習科」の魅力についてご紹介します。
◆人と人をつなぐ~中和いきいきプロジェクト~


中和地域では、10年ほど前から少子高齢化に対する危機感を抱きはじめていました。中和地域づくり委員会では、今後の活動のあり方を検討するために、2014年、全世帯を対象としたアンケートを実施。その結果、住民のほとんどが「小学校の存続」を望み、また、地域外の人との交流や新たな移住者の受け入れに対して、多くの人が賛成の意見であることがわかりました。

そして翌年から「中和小学校の存続」「なりわいの創出」「居心地のよいコミュニティの実現」などを目標に掲げ、「中和いきいきプロジェクト」を展開しました。たとえば、2016年には、農山村の暮らしに関心をもつ地域外の人を対象に「真庭なりわい塾 」を開講。その翌年には、塾生と住民が協働で「空き家調査」を実施。さらに空き店舗を改修し、「えがお商店」(小さな拠点)を新たに整備しました。そして、空き家と入居希望者とのマッチングも住民自身が行っています。

その結果、今では20軒以上の空き家に明かりが灯り、40人以上の移住者を受け入れることができました。これにより園児や児童の数が増えたことはもちろんですが、移住者の多くが地域づくりや学校づくりに参画することで、新たな動きも生まれています。昨年度からはじまった「まにわ里山留学 」(子どもたちを、短期・中期・長期の山村留学生として受け入れる制度)も、そのひとつで、中和地域に移住した一般社団法人「はにわの森 」のメンバーが、その運営を担っています。

● 真庭なりわい塾 https://maniwa-nariwai.org/
● まにわ里山留学 https://maniwa-satoyama.com/
● 一般社団法人はにわの森 https://www.haniwanomori.com/
◆みんなで学校を応援する~中和いきいきサポーターズ倶楽部~

「真庭なりわい塾」を開講した2016年には、小学校のPTAを中心とした新たな動きもありました。「中和の子どもを元気に」「中和地域を元気に」を合言葉に、「中和いきいきサポーターズ倶楽部」を結成したのです。

中和小学校は、その翌年から、すべての学年が複式学級になることが決まっていました。これからは子どもの人数だけではなく、保護者の人数も少なくなる。ならば、みんなで学校を支えようと、幅広い年齢層の住民が参加し、学校ボランティア活動や講師の派遣、放課後や長期休暇の子どもの居場所づくりや社会教育に取り組みはじめました。こうした活動の積み重ねがあり、2019年、中和小学校はコミュニティ・スクールになったのです。

サポーターズ倶楽部の中には、「生活科」と「総合的な学習の時間」を主にサポートする「いきいき学習プロジェクトチーム」も編成されました。メンバーには、中和小学校を積極的に応援したいと考える元教員や地域外の人も含まれています。メンバーは、通常は先生方だけで行っている「校内研修」にも参加し、主体的・対話的・協働的な学びの実践と試行錯誤、さらには、その学びを深めるための対話を重ねてきました。その結果、中和小学校は昨年度、「教育課程特例校」の指定を受けることができたのです。
◆地域とともにある学校づくり~中和いきいき学習科をつくる~
「教育課程特例校」とは、地域や学校の特色を生かした独自の教育課程を編成して、子どもたちの教育を実施することができる制度です。
中和小学校の場合は、「生活科」と「総合的な学習の時間」を統合し、「中和いきいき学習科」を新たに設置しました。
「中和いきいき学習科」では、「中和をいきいきと元気にする」ことを目的として探究活動(探究学習)を行っています。それは「中和をいきいきと元気にしたい」という地域住民の願いとも一致しています。
探究活動の対象は、中和の豊かな「もの・こと・人」すべて、です。なので、具体的な探究課題は設定していません。その代わり、「子どものつけたい力」に応じて「子どもの学ぶ姿」を明確にしています。





中和小学校の場合はそれを、低学年は「中和いきいき探検隊」、中学年は「中和いきいき新聞記者」、高学年は「中和いきいきプロデューサー」としました。子どもたちは、その姿を、自分の役割(任務)として認識し、自覚と誇りをもって探究活動に取り組んでいます。

今年も低学年は「探検隊」の名刺をつくり、「中和のお宝をみつけにいくんだ」と嬉しそうに学校の外に出かけています。学校に戻ると、さっそく「どんなお宝をみつけたの?」「どこでみつけたの?」という「対話」がはじまります。「対話」を通して子どもたちは、「中和のお宝」を整理・分析し、それを「表現」して、さまざまな人と「交流」(対話)します。「交流」するからこそ、今までは気づかなかった新たな魅力や課題を、子どもたち自ら発見していくのです。





「交流」のメインは、秋に行う「中和いきいき学習発表・交流会」です。毎年、小学校の体育館がいっぱいになるほど、多くの地域の方が参加します。

発表の中で、子どもたちが大切にしているのは「ありがとうのつながり」です。魚も動物も、草木も人も、すべての命はりがとう」でつながっています。人はひとりでは生きていけない、つながりあい、助けあいながら生きている、ということを学んでいます。
 
子どもたちの発表には、大人もはじめて知ることや気づくことがたくさんあります。たとえ少ない人数ではあっても、一人ひとりが主人公となって堂々と発表する姿に、大人たちは勇気をもらいます。そして、子どもたちをもっと応援したい、地域や学校をより良くしていきたいという気持ちに自ずとなっていくのです。



いま、国際社会では、「SDGs」(Sustainable Development Goals)の次のアジェンダとして、「SWGs」(Sustainable Well-being Goals)」が注目されています。「SWGs」とは、「みんなで持続可能なウェルビーイングな状態を目指そう」ということです。みんながウェルビーイング(肉体的にも精神的にも社会的にも、すべてが満たされた幸福な状態)であるためには、子どもも大人も「学びあい、育ちあう」環境が欠かせません。「学びあい、育ちあう」場面には、必ず「交流」(対話)があります。そこには「ふるさとへの愛着」や「誇り」、そして「共感」が生まれるでしょう。「共感」は、より良い「自治」へとつながります。

地域づくりや学校づくりは「ここまでやれば、おしまい」とか、「ここまでくれば、安心だ」ということは決してありません。少子高齢化は、なかなか歯止めがかからず、「いつも崖っぷち」の状況は変わりません。けれども「みんなでよく生きようとする」、ウェルビーイングな状態があるならば、それこそが未来をつくる原動力になるのです。


文責:真庭市郷育魅力化コーディネーター 吉野奈保子

※詳細は、下記パンフレットもあわせてご覧ください。
ダウンロード(教育課程特例校 中和小学校)