
「いのち」を描く未来への挑戦:樫邑小学校が参加する世界一大きな絵プロジェクト
真庭市の全校児童9人の小学校が県代表に!
岡山県真庭市の自然豊かな地域にある全校児童9人の樫邑小学校(2024年度)。この地域では紙幣の原料として知られるミツマタの栽培が盛んで、樫邑小学校を卒業する児童は、卒業証書の紙を自分たちで漉くという伝統行事があります。
そんな山間にある小さな小学校に、2025年4月13日(日)開幕の「大阪・関西万博」に展示される、国や人種をこえて世界平和への意識を育むことを目的とした「世界一大きな絵Expo2025」プロジェクトの岡山県代表に選ばれた連絡が入りました。
2024年12月下旬にプロジェクトの一報を受けた時の想いを、樫邑小学校 山本信子校長は
「素直に嬉しいという気持ちと共に、新たなチャレンジにワクワクしました。そして、子どもたちの想いが詰まった絵にしたい!と思いました。」
と振り返ってくださいました。
「世界一大きな絵」プロジェクトは、世界中の子どもたちが描いた絵をつなぎ合わせて、1枚の巨大な絵を完成させる壮大な取り組みです。このプロジェクトの目的は、国や宗教、人種を越えて、子どもたちが協力し合い、平和や環境保護への意識を育むことです。
この活動は1996年にバングラデシュで始まり、以来、世界中で展開されています。子どもたちは布に自由に絵を描き、それを縫い合わせて巨大な作品を作り上げます。これにより、異なる文化や背景を持つ子どもたちが共通の目標に向かって協力する機会を得るのです。
今回、大阪・関西万博の会場ではプロジェクトの一環として、47都道府県や海外の子どもたちが描いた絵が展示される予定です。
制作スタート
2025年2月から制作が始まりました。
「大きな絵」と言われるだけあり、1枚あたりの完成サイズは5m×5mになります。
しかし、学校に届いた布は、1m×5mの布が5枚。
まずは布を縫い合わせて、5m×5mにすることから始まりました。
縫い合わせには、地域の皆さんの力が発揮され、地域の方と一緒に学校のミシンを使って作業がすすみました。

出来上がったキャンバスを見た児童たちから
「めちゃくちゃ大きいなぁ!」
「縫うのが難しかったぁ~」
「思ったより縫えたぁ」
「これに描くなんて難しそう。」
という声が聞こえてきます。
キャンバスの制作と並行して行われたのが、どんな「絵」を描くかの作戦会議。
ここには、郷育魅力化コーディネーターの平田勉さんが、これまでの経験を生かして、サポートに入りました。

平田さんは、
「児童の考えたアイデアをできる限り絵の中に活かして、みんなで描くこと。」を大切にしながら児童に関わられたそうです。
今回のプロジェクトのテーマは「いのち」。
平田さんは、児童のみなさんと
「どのような絵を描くのか、何を描くのか?」
について対話を重ねながら決めていきました。
平田さんの問いから、児童たちの様々な気づきと発想が引き出されていきました。
・「いのち」とは?「平和」とは?どうやって表現する?
いのち
┗自然→大樹→校庭にある桜が描きたい→大樹だから大きな幹の桜にして描こう
太古から繋がっている→太古の生物を描こう
平和
┗シンボル→鳩を描こう
・沖縄にも作品が展示されるのはなぜ?
┗戦争があったから→忘れちゃいけないことだね。どう表現する?→当時の道具がいいかな
そんな様々な意見を高学年の児童がまとめて「大きな絵」のイメージが膨らんでいきます。
いざ制作に入ると、4月から入学する園児も加わり総勢10人で頑張りました。



一生懸命作業に取り組む児童たち
制作時に印象に残っているエピソードを山本校長・平田さんに伺ってみました。
山本校長
「制作に関して、多くの取材が入りましたが、普段通りに友だちと対話をしながら、10人という人数で巨大な絵の制作を進めた姿です。児童たちの頼もしさを感じました。
また、インタビューを受ける中で「自分たちの思いが伝わると嬉しい。」などコメント内容からも成長を感じることができ嬉しかったです。」
平田さん
「いのちと平和をテーマに児童のアイデアを発表してもらっている時のこと。
児童たちが「時間が大切、時計を描こう」と言い出しました。
正直、このアイデアを採用するのは難しいと思いましたが、話し合いを続けていきました。
ある時、「時計の時間は何時にする?」と問うと、高学年から「12時ちょっと前。・・・・あ、環境危機時計(針が12時に近づくほど環境危機が深刻)にしよう」と言い出しました。児童たちの発想力に驚かされました。
そして、難しいと思っていた時計の案が、不採用どころか、絵の中心に描くことになったことです。」
さまざまなエピソードが詰まった「絵」が完成し、2025年3月16日(日)に開催された樫邑小学校150周年記念イベントで、お披露目されました。

当日、作品をみた方からは
「すばらしい作品!」
「迫力ある絵に驚いた。」
「大勢の方に見ていただきたい。」
「絵を描くと聞いて、自分が思っていたよりも、神秘的でメッセージ性のある絵だなぁ」
など、様々な声が聞こえてきました。
制作を終えて・・・
山本校長と平田さんに、制作を終えての想いや児童の様子などを伺いました。
Q:制作を通して感じられる、子どもたちや地域の方などの変化
A:山本校長
「大きく3つあります。
1つ目は、構想を練る中で、樫邑の良さを再確認できたと思います。絵の中に、樫邑の自然・動植物などが描かれています。
2つ目は、初めての経験のすばらしさ、県代表としての責任と誇り、素晴らしい挑戦であることへの自信など、心に残る経験となったと感じます。
3つ目は、途中の過程を見学してくださったり、差し入れをしてくださったり、声かけをしてくださったりするなど、制作を通して地域の方の樫邑小への関心が高まったように感じます。大勢の方が樫邑小学校の子どもたちに心を寄せ、応援してくださっていることに、改めて感謝の気持ちでいっぱいになりました。」
Q:今回関わられた樫邑小学校の印象
A:平田さん
「児童が素直で元気な学校。全校児童9人という小規模校だけれど、大規模校では経験させてもらえないような豊かな経験ができる素敵な学校でした。私の母校の総社市立池田小学校と2023年度に交流をしていて、不思議な縁を感じました。」
Q:制作を終えて・・・
A:平田さん
「児童の想いの詰まったメッセージ性のある絵ができました。この春入学予定だった園児も制作に参加して、子どもたちにとっても私にとってもよい思い出になりました。」
Q:樫邑小学校のみなさん、地域の皆さんへメッセージを
A:平田さん
「この絵に込めた想いを大切に、自然・人と調和したくらしをしていきたいですね。そんなくらしを大切にしながら、何年後かにこの絵をもう一度一緒に見てみたいです。」
「大阪・関西万博2025」開催のタイミングで、樫邑小学校に通っていた児童のみなさん、そして1970年に開催された大阪万博を知っている地域の方。その間を繋げるかのような今回の作品。
きっと、今回参加した児童のみなさんには、記憶に残る「大阪・関西万博」になるのではと思います。

「大きな絵」の今後
今後、樫邑小学校の児童が描いたこの作品は、他県の学校や他国の子どもたちの絵と共に、「世界一大きな絵」となり
6月には沖縄の平和祈念公園
8月に大阪・関西万博
で公開される予定となっています。
タイミングが合えば、是非ご覧になって、樫邑小学校の児童たちの描いた絵を見つけてくださいね。
また、今回の取組だけでなく、地域と共に活動をされている樫邑小学校。
その魅力的な活動については、学校ホームページで是非ご覧ください。
樫邑小学校のホームページ
https://www.city.maniwa.lg.jp/site/kashimura-es/
(文責:郷育魅力化コーディネーター 秋田智恵子)