若者が住み続けたい「まちづくりのヒミツ」。(前編)
大畑伸幸さん・小田圭介さん講演会
若者が住み続けたい「まちづくりのヒミツ」。(前編)
- 2026年1月18日
子どもたちが幸せになり、大人もゆるやかに繋がれる「輪」をつくる「まにわあそびのわプロジェクト」第4弾講演会。「まちづくりのヒミツ~若者が住み続けたいまちになった!~」と題した、大畑伸幸さんと小田圭介さんの講演会がおこなわれました。 
- きっかけは、「子どもたちや若者は〈真庭に住み続けたい〉と思っているのだろうか?」という問いでした。答えはわかりませんが、ほかの自治体を見れば、確かに子どもたちや若者が「ここに住み続けたい!」と思う「まち」があります。
「ここに住み続けたい!」と答える若者が7年間で激増した「まち」。「消防団に入りたい!」とぞくぞく若者たちの入団が続いている「まち」。そんな「若者が住み続けたいまち」があります。
どんな風に子どもたちや若者に向き合い、どんな取り組みをすれば、そんな「まち」になるのだろう。「まちづくりのヒミツ~若者が住み続けたいまちになった!~」と題して、まちづくりのプロ、大畑伸幸さん・小田圭介さんに講演いただきました。
※この記事は講演内容をもとに編集したものになります。
当日はまず「地域住民が主体となった遊び場づくり」を実施している真庭市内3団体の事例発表から始まりました。 - 「北房」おそとあそびをするかい(原優子さん・藤堂利恵さん)

- みんなで集まれば、もっと子どもたちを外で遊ばせることができて、親たちも交流ができる。「がんばらない、をがんばる」「だれも無理をしない」を大切に、出入り自由のゆるやかな「おそとあそび」を実施しています。違う年齢の子ども同士が遊んだり、ふだんは接点のない大人同士が関わり合うなどの「交流」が生まれています。
- 「勝山」子どもの未来を応援する会(藤本陽子さん)
- 子育て当事者である自分たちが子育てしやすい機会をつくりたくて立ち上げた会です。署名活動を通じて勝山に「新町どんぐり公園」をオープン。勝山の有志団体とコラボして廃材でつくった楽器を用いた演奏会なども実施して、「孤立しない、孤立させない子育て」ができればと活動しています。
- 「真庭市教育委員会」家庭教育支援チームふらっと(藤木純子さん)
- 「子どもがもっと自由に遊べたら良いよね」をきっかけに、「遊びの日」を開催。はじめは大人側が「子どものために」という想いが強くなっていましたが、子どもも大人も主体となり、ともに楽しむ場へと方向転換。「楽しいところに人は集まる」の言葉どおり、現在では学校運営協議会など、地域の大人たちが主体となって「遊びの日」をおこなうようになっています。
- ひとりで食べる人と、家族で食べる人の決定的な違い
- 【大畑伸幸さん講演】
大畑伸幸さんプロフィール
小学校&中学校の教員、行政職員経験を経て、現在NPO法人おむすびの代表。島根県益田市にて、社会教育を軸とした「学社融合」を実現するため、学校と地域を繋ぐ「人づくり」に長年尽力。益田市の「人づくり推進官」としても政策を主導。現在はNPO法人の代表として、体験活動や中間支援の活動を展開中。 
- 大畑さん:
島根県の益田市から来ました。おもに子どもと大人を繋ぐっていうことをやっています。その前段として「孤独って社会問題」という話をさせてください。いま日本は「無縁社会」ですよね。繋がりが希薄で、孤独を感じている方が多い。でね、孤独になると免疫力が下がって早く死んじゃうんです。
「ゴリラを見れば、人間が見えてくる」とおっしゃるゴリラの研究者である元京都大学総長の山極壽一さんの話なんですが、ゴリラって食べものを取ってきても、メスや子どもたちから「ちょうだい」と言われたら「仕方ねえな」って分け与えるんです。サルは奪い合いますよね。でもゴリラは分け与える。
人間も同じなんです。分け与えてともに食べる。これが本性なんです。ひとりで食べる人と家族で食べる人、どちらが早く死んじゃうかって言ったら「ひとりで食べる人」ですよね。
もうひとつ、人間は多産です。毎年子どもを生むことができる。つぎの妊娠が来るから、年配の人たちが生まれた子たちの面倒を見る。「ひとりではなく、ともに育てる」これが人間のDNAには刻まれています。
これも人間の本性です。人間の本性というのはね、やればやるほど幸せになるんです。この本性に気づかないまま親だけが子育てをがんばってしまうと、親も子どもたちも輝きを失っていってしまうんじゃないかなと思います。 - 学校以外の時間、子どもたちは何をしているのだろう
- 大畑さん:
益田市も真庭市と同じように人口減少に悩んでいます。大学がないため、9割の高校生は市外に出ます。そしてそのまま益田市に帰って来ない子がほとんどです。
でもね、益田市は平成11年から「ふるさと教育」にチカラを入れていて、教科書にも益田市の人やモノがたくさん載っています。しかも、小学生にアンケートを取ったら90%が「益田市が好きです」と答えてくれるんです。でも帰って来ない。
ちょっとここで、小学生の1年間を見てみたいと思います。学校で学んでいる時間、寝る時間を差し引いたら、学校以外の時間って185日分あるんですよね。
でも185日分もある学校外の時間さえ、塾やスポーツクラブ、習いごとで「それをしてはいけません」「次はこれをするんだよ」と指示や命令、評価ばっかりされて、そりゃあ帰りたいと思わないですよ。だからこそ、社会教育・地域の出番だと思うんです。 - 「安心して話せる大人が地元にいる」と思える公民館の存在

- 大畑さん:
学校を中心に考えなくて良いんです。コミュニティに人が住んでいて、子どもがいるから学校があるという順番です。その「コミュニティ」に目を向け、益田市は学校外の活動として公民館ごとに「つろうて(連れ立っての意味)子育て」を立ち上げました。
これはすべての公民館が事務局となって、地域の人たちと一緒に、学校外の子どもたちの活動をつくるんです。そして活動に携わる大人たちがゆるやかに繋がって「うちではこんなことをやっていて」「いいですね、うちはこういうことをしています」「では一緒にやりましょう」と広がっています。
そうするとね、変わってきたんです。以前子どもたちに「学校の先生と親以外で気軽にしゃべれる大人はいますか?」って聞いたら半数近くが「いない」と答えました。すなわち多様な大人との出会いがなかったんです。
しかし公民館を軸に活動した結果、大人と触れ合う機会が増え「こんな面白いおじいちゃんがいたのか」「あのお姉さんみたいになりたいな」と思う子どもたちが増えてきた。
そのなかで大切なのは、「信頼」だと思っています。信頼って、ともに過ごす時間なんです。べつに良いことを言わなくても、ともに一緒に過ごしたり活動をしたりすることで「安心して話せる大人が地元にもいるんだ」となり、信頼が築かれていきます。 - 地域の大人と日常的に関わることで、変化が起きる
- 大畑さん:
益田のある地域では、学校と公民館をくっつけました。小学校の校庭をまんなかにして、敷地内に保育園、学童も入っています。
さらに近隣には、診療所やまちづくり団体の事務所、消防車庫、農園など何でもあります。そうすると日常的に地域の人も入って、いろんな人がごちゃまぜになります。子どもたちも毎日いろんなシーンでいろんな人に会う。そういう空間づくりをもっと本気でやるべきだと思います。
地域の大人と日常的に関わる、そういう取り組みを進めたことで「将来、益田市に住みたいですか?」と若者たちに尋ねたら、「帰ってもいいよ」と言う若者が約30%も増えたんですね。
本当に帰ってくるかどうか、現時点ではわからない。でも「帰る選択肢」を持っていなかった若者たちの気持ちが少しずつ変わってきているというところが、学校教育の外でおこなう「社会教育」の良さなんだと実感しています。 - 教育の目的は、「社会の形成者」を育てること
- 【小田圭介さん講演】
小田圭介さんプロフィール
「何にもしない合宿」生みの親 兼 静岡県裾野市東地区おやじの会。社会教育に不足する「日常の関係」に着目し、子どもたちと地域との接点、世代や学校を超えた繋がりを生むため、裾野市東地区おやじの会で月1回のお泊まり会「何にもしない合宿」を考案。2012年9月から実行委員長。 
- 小田さん:
静岡県裾野市から来ました小田圭介です。「地域って自分たちでつくっていくものだし、つくれるものだぜ」っていう話をしたいと思います。まず教育基本法第1条の話をします。良いことが書いてあるんです。
教育は、人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。
教育の目的って「人格の完成」と「社会の形成者の育成」なんです。さらに第2条では「主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養うこと」とあります。自分たちが暮らしている社会が、より良くなることに関わろうとする人間を育てることが教育だっていうんですね。 - 地域住民にも「将来の良き隣人を育てる」役割と責任がある
- 小田さん:
社会の形成者って言い換えれば、皆さんにとっての「将来の良き隣人」なんだろうと思っています。だれが隣に暮らしているのか、皆さんの人生を左右するはずです。
今、あまりに「たまたま隣人」という世界に生きていませんか? ということです。将来隣にだれが住むのか、どんな人が住むのか。いやいや、自分たちで「将来の良き隣人」をつくろうぜっていう話です。
皆さんの隣人って、だれが育てたいんですか? 学校ですか、行政ですか? いえ、皆さん自身なんじゃないですか?
教育基本法第13条にもあるんです。「学校、家庭及び地域住民その他の関係者は、教育におけるそれぞれの役割と責任を自覚するとともに、相互の連携及び協力に努めるものとする」
学校も家庭も、地域住民も、それぞれが教育の主体として役割と責任があって、相互に連携協力しなさいよと。つまり、地域住民にこそ「将来の良き隣人を育てる」役割と責任があるわけです。 - すべてのまちづくりの土台に「信頼関係」がある

- 小田さん:
そのために必要なものが、人と人とが良好な関係で繋がっている状態「信頼関係」です。信頼関係が構築されていなければ、教育なんてことにはたどり着けない。でもそれって、べつに教育に限ったことではないですよね。すべてのまちづくりの土台に「信頼関係」があるんだと思います。
今、気の合う人たちだけと付き合っていれば、それなりに幸せに暮らせる時代になりました。でも少し考えてみてください。
将来、年を取り、日常生活が徒歩圏内になって、気の合う仲間たちも先に旅立ってしまって、自分が最後のひとりになったとき――。知り合いもいなくて、だれとも会話できない。そんな人生が待っているかもしれない。でも、30歳年下の友だちや、気にかけてくれる世代の違う仲間たちがいてくれたら。私たちのしている取り組みの土台には、そういう思いがあります。 - やりたい人が「やりたい」と言える。言い出しっぺ委員長方式
- 小田さん:
PTAの内部サークルで立ちあがった「おやじの会」というのをやっているんですけど、「言い出しっぺ委員長方式」を取り入れています。やりたい人がやる。やりたいと言い出した人がやる。やりたくない人は邪魔をしないというルール。
以前まで、うちの小学校のPTAは明らかに、だれかがだれかに無理やりやらせていたんですね。役員さんたちは「昨年行われた事業を今年も変わらず実施して、だれからも何も言われることなく、来年の役員さんに引き継ぐ」ということを最も大切に考えていたので、やりたいことがあっても言いませんでした。
せっかく「やりたい」があってもできない。でも言い出しっぺ委員長方式なら、「引き継ぐ」とか「押しつける」になりません。
私たちはPTAのサークルとして立ちあがっているので、当然「社会教育関係団体」なんです。でもマス釣り大会や地引網、もちつき大会などの体験企画だけで、教育にたどり着けているのだろうかと思ったんです。
「信頼関係」が教育の土台ってお伝えしたとおり、「学校教育」は月曜から金曜までの積み重ね、「家庭での教育」は365日の積み重ね。でもなぜか「社会教育」と言われるこの領域が信頼関係の積み重ねもなく、単発のプログラムで「教育できているつもり」になっているのではないか。教育にたどり着くためには、とにかく接触頻度が必要だろうと気づいたんです。 - 負担感ゼロ「何にもしない合宿」の本質

- 小田さん:
そして、私が言い出しっぺ委員長になったのが、「何にもしない合宿」です。これが良くて、毎月できるスタイルなんですね。
夜ごはんもお風呂も家で済ませて、寝袋だけ持って集まり、夜9時の消灯まで自由に遊んで、寝て。朝早く起きて、朝ごはんはもう家に帰って食べる。朝は7時半完全解散。特別なことは何もしない、という合宿です。
準備も片付けも大変なことはありません。だって、企画も準備もないから。負担感がゼロ。最近ではもうみんな慣れてきて、朝の掃除とかも率先してやってくれています。
思いついた次の日に小学校の校長先生に電話をして、「こんな感じで体育館を使わせてもらえませんか?」と言ったら「いいよ」と返事があって。保険の関係だけちょっと整えて、翌月には第1回をスタートさせることができました。
今はもう100回を超えています。毎月積み重ねているので、お互い顔見知りになっていく。通勤や通学で一緒になれば挨拶をするし、スーパーやドラッグストアで会えば挨拶どころか、雑談をするようになります。
信頼関係の構築に、この月1回の「何にもしない合宿」がベースになっている実感があります。地域の教育力って、子どもが「名前を呼べる大人」が地域にどれぐらいいるかに現れるんですよね。毎月の接触の積み重ねが、地域全体を居心地の良い場所に変えていくんです。
要するに、人間関係ができているんですね。保護者同士もそうです。例えば裾野市内の他地区で「何にもしない合宿」を継続開催している子ども会の会長決めは5秒で終わるって言ってます(笑)。人間関係ができているから押し付け合いにならないわけです。
消防団にも繋がっています。消防団がどういう活動をしているのかって、どうでも良いんです。だれに誘われて、そこが居心地良いかどうか。いつも一緒にいる仲間、友だちに誘われて「じゃあちょっと入ってみようか」ぐらいの感覚でいくらでも入団者を見つけられる印象です。 - >(後編では、トークセッションの内容をお伝えします)
- 編集:甲田智之
写真:池田将