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ふらっと
家庭教育支援チーム

子育ての悩みを抱え込まなくて良い。子どもたち、親たちの居場所 真庭市家庭教育支援チーム「ふらっと」

乳幼児や子どもたちが、楽しそうに遊んでいる。
子どもたちだけではなく、保護者も一緒になって遊んでいる。

そしてまた、保護者同士が笑いあいながら、「子育て」について、「日々のちょっとした悩み」について話している。その場に地域のひとが関わることもある。

こんな光景を、真庭で育んでいるチームがある。真庭市家庭教育支援チーム「ふらっと」。

子ども同士・子どもと親・親同士、さらには地域のひとたちにいたるまで、だれでも気軽に訪れることができる。
「フラット」な「つながり」を大切にして、悩みや困りごとをひとりで抱え込まなくて良い環境づくりが評価され、令和5年度には「文部科学大臣表彰」を受賞した。

「文部科学大臣表彰」を受賞する取り組みとはどのようなものか。何より、どのような思いで活動されているのだろうか。

家庭教育支援チーム「ふらっと」のメンバーであり、真庭市教育委員会生涯学習課の社会教育指導員の藤木純子さん、チーム員の丸山恭子さんに取材させていただいた。
真庭市家庭教育支援チーム「ふらっと」とは、どういうチームですか?
藤木:
そもそも「家庭教育支援」って聞くとなかなかわかりづらいですよね(笑)。「子育て支援」とどう違うの? と思われる方も多いと思います。
重なっているところはあるんですが、「お家で親御さんが子どもさんにどう関わっていくか?」に重きを置いたのが家庭教育支援です。

たとえば、「親子でふれあい遊び」を企画したとき、そのイベントだけで終わらず、お家に帰ったあとも「お家のなかでの子どもとのふれあいにどう生かされるか」そういうことを考えて取り組むのが、「家庭教育支援」だと考えています。

丸山:
あとは、人との繋がり、地域との繋がりですね。昔と比べたら、どうしても地域との繋がりが薄くなってきているので、親御さんが「孤独感」を感じやすくなっていて。それについても支援ができれば良いなと活動しています。
藤木:
もともとのきっかけは、平成18年(2006年)に教育基本法が変わって、そのなかに「家庭教育」が明記されたことです。それを受けて文科省が全国的に「家庭教育支援チーム」を推進したので、真庭市でもつくることになりました。現在は生涯学習課の管轄で、17名で活動しています。

丸山:
チーム名である「ふらっと」には2つの意味があるんです。
ひとつは「ふらっと来てくださいね」という、どなたでも気軽にお越しくださいという意味。もうひとつは、参加者もチームも行政も、携わっている人は「みんな、フラットな関係ですよ」という意味を込めています。
「ふらっと」さんはどのような活動をされているんですか?
藤木:
活動には大きく4つの柱があります。「学びの場の提供」「おしゃべり広場(おしゃべりカフェ)」「遊びの日」「わいわい子育ち親育ち」
なかでも、いちばん長い活動が「学びの場の提供」です。学校やこども園から依頼をいただいて、ワークショップをさせてもらっています。たとえば、そうですね。「ふりかえろう、子どもとの接し方」とか「見なおそう、我が家のスマホ・ネットとの関わり」など、保護者さんの要望に応じて開催しています。

とくに力を入れているのが入学説明会でのワークショップです。入学説明会って、いろんなこども園から小学校の入学式を迎えたり、転校して来られる方もおられたりして。
親御さん同士の繋がりがまだない状態なので、私たちが企画したワークショップを通してコミュニケーションを取ってもらうことで、「ひとりじゃなかったんだ」「子育てについて話せるひとがいるんだ」と思ってもらえるような活動をしています。

丸山:
なので、基本的には私たちが一方的に伝えるというよりは、保護者さん同士で話し合いながら気づいていただくというスタイルになっています。
ご家庭の様子などを共有いただいた結果、「イライラして、子どもに対してカーッとくるのは私だけじゃなかったんだ」という風に安心して帰られる方がたくさんいらっしゃいます。

藤木:
おかげさまで、「悩みを持っているのは自分だけじゃなかった」「他のひとも同じような悩みを持っていた」「他のひとからヒントがもらえた」「また子育て頑張ろうって思えた」という声をたくさんいただいています。
お母さんやお父さんの悩みっていうのは、けっこう根底では一緒なんですね。子どもの年齢が大きくなるにつれて、悩みは変わっていきますが、先輩お母さんが「うちはこうだった」という体験談を話すだけでも、とても価値のある時間になっていると思います。
「保護者さんに〈孤独〉を感じさせない」活動なんですね。
藤木:
そうですね。2つめの「おしゃべり広場(おしゃべりカフェ)」もそれに該当すると思います。「なんとなく集まっておしゃべりしましょう」というゆるい居場所が「おしゃべり広場」です。月に一度、「くせ活き生きサロン」で開催しています。
「おしゃべり広場」への参加は、お子さん連れでも大丈夫。お子さんを遊ばせながら、保護者さんは「いま気がかりに思っていること」など共有することができます。「野菜スープを夜寝るまえに飲ませても良いですか?」「学校に行きたがらないんですけどどうしたら良いですか」など、ご家庭のさまざまな悩みが相談できる場になっています。

丸山:
いまのお母さん、お父さんも含めて、皆さん忙しいんですよね。その結果、同じ地域、同じ学区で暮らしていても、なかなかお母さん同士が話し合うという機会を生むことができない。そもそも日々のなかで余裕がない。
なので、なるべく保護者さん同士が話し合っていただくような機会を、と思い、LINEを交換したりする貴重な時間を用意しました。「おしゃべり広場(おしゃべりカフェ)」はそういう場でもあります。

藤木:
出張する「おしゃべりカフェ」も特徴のひとつです。小・中学校の参観日、個人懇談など、保護者さんが来られるときに学校の一角をお借りして、「おしゃべりカフェ」を小さく開催します。
お茶やコーヒーを用意しているので、空いている時間にちょっと来られて、話をされて帰るという本当に「カフェ」のような時間になっています。
「遊びの日」についても教えてください。
藤木:
きっかけは保護者さんの声です。スクールバスで通う子どもたちも多く、放課後なかなか集まることが難しい。「でもやっぱり子どもたちの居場所とか、遊べる場がほしいな」という声をいただいてはじめました。

大切にしているのは「自由に遊ぶ」というところです。なるべく規制を外して、のびのびと外で自由に遊んでもらう。「やっちゃいけん」「それは危ない」で終わらせるんじゃなくて、できる限り見守っています。おかげで、子どもたちも「これ、やって良い?」と聞かなくなりました(笑)。自分たちが思うように遊んでいます。

丸山:
いまは両親のお仕事の関係で、子どもたちが家で過ごすことが増えています。それに家のなかで個人的に遊べるものもたくさんあります。また「安全」が重視され過ぎて、管理が簡単な家での手軽な遊びを親も選びがちですよね。
だからこそ、外で、しかも集団で、自由にわいわい言いながら遊べる場というのを本当に大切にしてあげなくちゃいけないなと思います。

藤木:
あと、「大人たちも楽しむこと」です。大人も一緒になって「これ、面白そう」「こんな風にするのも良いんじゃない」と楽しむ。すると、子どもも「なに、なに?」と遊びの輪がひろがっていくんです。
「遊びの輪がひろがる」というのが良いですね。
藤木:
それで言うと、地域のいろんな方に声をかけて、地域の方とも一緒にやっているんです。先の「孤独感を感じさせない」にも通じるんですが、「地域の大人どうしの繋がりも大切にしたいな」と思っていまして。
印象に残っているのが、「遊びの日」をした際、ある高齢の方が「自分の孫は遠くに住んでいて、地域にも普段小さな子どもがなかなかいない。だからこうして子どもたちが賑やかに遊ぶ声が聞こえてきて、心が和やかになった」とおっしゃったことです。

丸山:
子どもたちの遊び場なんですけど、じつは地域の方々も元気になってもらえる場でもあるんです。

たとえば、「竹馬を修理してほしい」と言われたとき、近くの高齢の方に声をかけたら「いいよ、行ってあげる」と言ってくださって、竹馬をなおしてくださいました。
そうしたら、学校の先生が「せっかくなおしてもらったんだったら、運動会の競技にしよう」ということで取り入れてくださって。「遊びの日」の竹馬が運動会に繋がったんです(笑)。

藤木:
普段なかなか触れ合う機会の少ない方に、「ふれあい遊び」の機会を持ってもらう。たとえば、 お父さんとかおじいちゃん、おばあちゃんとか。それが4つの柱、4つめの「わいわい子育ち親育ち」の活動です。
保護者の方の「自主的な活動」にも繋がっているとお聞きしました。
藤木:
はい。「おしゃべり広場」に来られていた保護者さんが何人か集まって、「このおしゃべり会を自主的にしたいんですけど、お手伝いしてもらえますか?」と相談いただいて。
子育てに悩まれている保護者さんが集まって「うちの子こうなんだけど」「うちもうちも」なんて話す会「ふらっとなおしゃべり会」が始まりました。私はまとめ役でもなくて(笑)。保護者さんがまとめてくださるんです。来れない方にも「今回はこんな話をしましたよ」というLINEを流してくださったり。

じつは今年から、不登校や不登校ぎみ、行きしぶりの子どもをもつ保護者さんの会も始めたんです。ただこういう会はどうしても敷居が高いと思うんですね。なので、繋がりをつくって、その繋がりのなかから「行こうかな」と思ってもらえたらと考えています。
「繋がりづくり」を大切にされているんですね
丸山:
たとえば、真庭市外から結婚して真庭へ来られた方が、その地域に入っていこうとされるんですけど、そもそも地域の皆さんも仕事や家事などで忙しく、繋がる接点そのものがない。大人自身が繋がりを持ちにくい社会になっていると思います。
私たちはそんななかで「ふらっと」の活動を通して、保護者さん同士が繋がって、地域の方とも繋がって、子育てしやすい環境をつくっていけたら、と思っています。

藤木:
小学校の入学説明会時のワークショップでも、最初皆さんとても緊張して入ってこられるんですけど、ワークショップのなかで同い年ぐらいの子どもさんを育てていらっしゃる悩みとか「あるある」 を共有して。
帰られるときには、なんだかスッキリしたとても良い笑顔になっているんです。「ひとりで悩んでいたことが私だけじゃなかった」「悩みを共有して、友だちもできました」とか、そういう感想に触れたら「やって良かったな」と思います。

いま私たちは「種をまいている」という気持ちで取り組んでいます。「遊びの日」も種をまくという風で、地域のなかでその種が根を張って、芽を出して。私たちの手から放れても、しっかりとその地域で育っていく。そういう「ふらっと」でありたいと思っています。

ですので、お気軽にご参加、ご相談ください。
https://www.city.maniwa.lg.jp/soshiki/53/41592.htm
小さな悩みを話せる場所がある。ちょっと疲れたときに立ち寄れるカフェがある。子どもたちが自由に遊べる場所がある。
そして何より、「ひとりじゃない」と感じられる関係がある――。

真庭市の家庭教育支援チーム「ふらっと」が目指すのは、親も子も地域の大人も、みんなが主役となって子育てに関わる社会。

今日もまた、真庭市のどこかで新たなつながりが生まれている。
子どもたちの笑い声に誘われて、大人たちが自然に集まってくる。

そんな当たり前のようで貴重な光景を、「ふらっと」は静かに支え続けている。

聞き手・編集 甲田智之
写真 石原佑美